【現役整備士が唸る】ホンダ N-BOXの心臓部「S07B」エンジンに隠された、軽自動車の域を超えた“執念”

ニュース

日産の全固体電池が「未来の革命」なら、今回ご紹介するホンダの**「S07B型エンジン」**は、今まさに日本の道を支えている「現在進行形の芸術品」です。

ホンダ公式サイトの技術解説(S07B型 Nシリーズを支える超ロングストローク+VTECエンジン)を元に、整備現場でこのエンジンを触っている私なりの視点で、その凄さを語らせてください。


1. わずか6年で「全取っ換え」。ホンダが急いだ理由

2代目N-BOXから搭載されたこの「S07B」型。実は先代の「S07A」型から、わずか6年という異例のスパンで全面刷新されています。

整備士として見れば、S07Aも十分に完成度の高いエンジンでした。しかし、ホンダのエンジニアたちは満足していなかった。彼らが目指したのは、「軽自動車の枠を超えた、圧倒的な日常の使いやすさと低燃費の両立」。そのために、エンジンの骨格そのものを変える「超ロングストローク化」という大手術に踏み切ったのです。

2. 驚異の「超ロングストローク」がもたらすメリット

S07Bの最大の特徴は、ボア(内径)60.0mmに対してストローク(行程)77.6mmという、軽自動車としては極端な「超ロングストローク」設計にあります。

【整備士目線の解説】

  • 低速トルクの塊: ストロークを長くすると、吸気の流速が速くなり、シリンダー内で空気と燃料がよく混ざります。これが強力な「タンブル流(縦渦)」を生み、燃焼効率を劇的に高めます。
  • 街乗りの楽さ: 信号待ちからの発進や坂道で、アクセルを深く踏み込まなくてもグイグイ進む。これは、エンジニアが狙った「高い熱効率」が、そのまま実用的なトルクとして現れている証拠です。

3. 軽自動車初!ついに搭載された「VTEC」の魔法

「ホンダといえばVTEC」ですが、S07B(自然吸気モデル)では、ついに軽自動車として初めて吸気側にVTECが採用されました。

超ロングストロークにすると、低速は強くなりますが、どうしても高回転域での「吸気効率の低下」という弱点が出てきます。それを解決するのがVTECです。

  • 低回転域: バルブの開きを抑え、流速を稼いでトルクと燃費を稼ぐ。
  • 高回転域: バルブを大きく開き、一気に空気を吸い込んで出力を稼ぐ。

この「切り替え」があるからこそ、N-BOXは高速道路の合流でもストレスなく加速できるのです。現場でタペットカバーを開けるたびに、この小さなヘッドの中にVTEC機構を凝縮した技術者の執念を感じます。

4. ターボモデルの隠し味:電動ウェイストゲート

ターボモデルも負けていません。軽自動車で初めて「電動ウェイストゲート」を採用しました。

これまでのターボは、吸気圧(負圧)を利用してバルブを動かしていましたが、S07Bは電気モーターで精密にコントロールします。

これの何が凄いかというと、「レスポンスの良さ」と「燃費の良さ」のいいとこ取りができる点です。不必要な時は排気を逃がしてポンピングロス(抵抗)を減らし、加速したい瞬間には瞬時にブーストをかける。

「ターボ=燃費が悪い」というイメージは、この精密な電子制御によって完全に過去のものになりました。

5. 細部へのこだわり:鏡面バルブと細径プラグ

技術解説の中で、私が個人的に一番シビれたのが**「バルブの鏡面仕上げ」**です。

エンジンの熱を逃がすために、先代では高級車に使われる「ナトリウム封入バルブ」を使っていました。しかしS07Bでは、バルブの表面をピカピカの鏡面に仕上げることで受熱面積を減らし、ノッキング(異常燃焼)を抑えるという手法を選びました。

さらに、スパークプラグも従来より細い「M10サイズ」を採用。プラグを細くすることで、限られた燃焼室スペースの中でバルブ面積を1mmでも大きく確保しようとする。この「1mm、0.1gを削り出す」姿勢こそが、ホンダをホンダたらしめているのだと実感します。


整備士からのメッセージ:N-BOXが売れ続ける理由

N-BOXが日本で一番売れている理由は、広い室内や使い勝手だけではありません。その裏側にある、**「軽自動車という制限の中で、どこまで普通車を凌駕できるか」**というエンジニアの狂気とも言える技術投資があるからです。

S07Bエンジンは、単に「よく走る」だけではなく、整備性や耐久性まで考え抜かれた、現代の軽自動車エンジンの到達点の一つです。

「たかが軽自動車」と思っている方にこそ、一度このエンジンのスムーズさと力強さを体感してほしい。そして、その裏側に鏡面仕上げのバルブやVTECが息づいていることを思い出していただければ、整備士としてこれほど嬉しいことはありません。


執筆協力:現役整備士

(ホンダ公式技術解説:S07B型 Nシリーズを支える超ロングストローク+VTECエンジン 参照)